むち打ち症

1.どんな病気?

むち打ち症とは交通事故、スポーツなどで首に衝撃をうけ、頚部が前・後屈動作や回旋動作(ねじれ)を強いられて引き起こされる症状を言います。

症状として首の痛み・運動制限、頭痛、肩こり、吐き気、めまい、耳鳴り、シビレ、冷汗、筋力低下など多彩な症状を 訴えます。大半は軽症で局所の症状にとどまりますが、 時として自律神経失調症様の症状で苦しむ場合もあります。まれに頚髄損傷や外傷性の頚椎椎間板ヘルニアになることもあります。

むち打ち症は、一般的に次のように分類されています。

① 頚椎捻挫型
むち打ち症の中で最も多く、70%を占めるといわれています。
頚椎の骨と骨の間にある関節包や骨の周囲にある靭帯などが損傷されたものです。

② バレー・リュー症候群型
後頚部交感神経の刺激症状として、内耳の症状や目の症状、心臓の症状、咽喉頭部の症状などを呈するが、耳鼻科、眼科、内科などの客観的所見は
乏しく、本人の訴えが主となります。

③ 神経根症状型
脊髄の運動神経と知覚神経が集まっているところを「神経根」と呼びます。この神経根の周りに腫れが起こり、引抜きのような損傷が起こると、それぞれの神経がコントロールしている部位に症状があらわれます。神経学的検査などにより、客観的所見が認められます。

2.時間的経過

むち打ち症の治療は時間的経過により、急性期、亜急性期、慢性期に分けて行います。 「むち打ち症」の70パーセントを占める「頚椎捻挫」を中心に述べます。

(1)急性期(受傷~1ヶ月)
 切り傷など出血が止まり、傷口がふさがるまでの期間(組織が瘢痕化する期間)は3週間といわれています。

 初期の頚部の安静と固定は重要とされ、後遺症を左右するとも言われます。
     
 入院については、頚椎捻挫には必要ないとするのが一般的です。ただし、神経根症状、知覚障害、麻痺などがはっきりしている場合は入院が必要とされます。固定は、ギプスやカラーなどによるものです。
  
(2)亜急性期(1~3ヶ月)
 組織の瘢痕を経て周囲と同じ柔軟性をとりもどし修復が終わるのに8週といわれています。つまり2ヶ月ですが、急性期に1ヶ月固定されると頚椎の可動が低下するので、その回復も含めて修復が完了する期間を受傷後3ヶ月としたものです。
 
(3)慢性期(3ヶ月以降)
 神経根症状や自律失調症状には病院では神経ブロックなど10回を目安に行ないます。神経根型の場合は、脊髄の造影と椎間板造影、筋電図などの諸検査をもとに手術療法も考えられます。

 「むち打ち症」の大半を占める「頚部捻挫型」は、急性期に適切な治療を受ければ、そのほとんどが3ヶ月以内に治癒するというデータが出ています。

3.症状の特徴


追突の場合、第7頚椎の下から肩甲骨の間の胸椎にかけて両側の筋肉が硬く隆起した特徴的な症状が見られることがあります。夜中や起床時に痛みがあります。

横突の場合は複雑で、くび・肩のあちこちが少しずつ痛む場合や片側のくび・肩・肩甲骨周囲が全体的に痛む場合もあります。 治療自体は難しく ありませんが受傷後、早期に治療することをお勧めします。

4.当院での鍼灸治療


基本的な治療の手順

1.まずはうつ伏せで後頭部から、肩甲骨の間までの範囲で夾脊穴というツボに治療します。ほぼ左右両側の治療です。

2.次に首の後ろ側だけでなく、腕神経叢が通る側頚部の斜角筋群をゆるめます。腕にしびれがある場合、特に有効な処置です。

3.あお向けで前頚部の胸鎖乳突筋を緩め、念のため鎖骨周囲の筋緊張をチェックします。

4.うつ伏せになれない場合もあるので、状況に応じて横向き(側臥位)で治療します。
   
治療のポイント
首の治療には細かい技術が必要です。腰や肩の治療よりも細い針を使用しさまざまな方向から針を打つことが大切です。少ない数のツボで完璧な治療を行うことは難しいと言えます。痛みが続いて神経過敏になっていると、首の緊張が起こりやすくなっているので、治療では針の選択を慎重に行ないます。

吸玉のカップもできるだけ小さなものを使用し、痛みの顕著な部位を中心に筋肉や靭帯の緊張を緩めます。

ストレートネック ・ ミリタリーネックについて
突然の事故でむち打ち症になり、はじめて頚椎の画像診断を受けて医師から自分の頚椎のタイプについてストレートネック ・ ミリタリーネックなど、首の前湾が少なく事故に弱いというマイナスの要素を指摘?されて、自分のむち打ち症は他の人よりも治りにくいと思い込んでいる患者さんも多く来院されますが、私の経験では鍼灸治療を受けることでストレートネック ・ ミリタリーネック自体が、解消されてくることも多いので、このような特徴的な頚椎の患者様だからといって回復が難しいということはありません。

事故の程度によっては精神的にも大変な時期ですが治療をためらう、あきらめるよりは、一度は質の高い鍼灸治療を受けてみてください。人生に光明が差したと言ってくださる患者さんもいらっしゃいます。