五十肩・肩こり痛

1.どんな病気?

 肩関節周囲炎(いわゆる五十肩)は、はっきりとした原因は不明ですが、肩関節の痛みで発症し次第に痛みが増強して関節拘縮を生じ、肩の機能障害をもたらす疾患です。40~60歳代によく認められることから、老化現象を基盤に、軽微な外傷(けが)で癒着性関節包炎や滑液包炎を発生させ、肩関節の疼痛や拘縮をもたらすものと考えられています。

初期には肩の痛み、肩の運動制限があります。特に、後方挙上(帯を結ぶ動作)や外旋(肩を外に捻る動作)が制限され、次第に前方挙上(バンザイをする動作)が困難となります。時に夜間痛で目を覚ます場合もあります。診断は、レントゲン検査で骨・関節に異常がないことを確認し、肩の痛みを伴う運動制限を認めれば確定します。

 同様な症状を訴える疾患として腱板損傷や変形性肩関節症などもありますので鑑別には注意を要します。頚椎ヘルニアである場合もしばしばあります。

一般に五十肩は放置しても半年ほどで治ると考えられていますが、適切な診断を受けず放置したために治るまでに長期間を要し、後遺症が残る場合もあります。やはり、早期診断・早期治療が大切です。

腱板損傷とは

 腱板は全ての肩の運動において肩関節の位置関係を良好に保てるように作用し、肩の回旋運動(ひねり・ねじれの動作)や三角筋と協調して外転運動、挙上運動を司ります。

 腱板損傷とは何らかの原因で腱板が破損した状態を言います。原因としては転倒や打撲、スポーツ外傷などにより発生する場合と、加齢的変化(老化現象)を基盤に肩の使い過ぎが加わり発生する場合とがあります。好発部位は棘上筋腱の大結節付着部です。損傷の程度により完全断裂と部分断裂(部分的に切れた状態)とに分かれます。

 症状は肩の痛みで運動にて増悪します。また、夜間痛(悪い方の肩を下にして寝ると痛みが出現する)や挙上困難などを訴えます。診察では大結節部に圧痛を認め、インピンジメント徴候(肩峰下滑液包や腱板が烏口肩峰アーチと最も衝突や圧迫を受ける位置に肩を挙上し、痛みの有無をチェックする検査)が陽性となります。典型的な例ではドロップアームサインといって、肩を外転挙上してゆくと水平位で腕の保持が困難となります。レントゲン検査では肩峰下骨棘や大結節の扁平化を認める症例もがあります。確定診断には関節造影やMRI、関節鏡が必要となります。

 完全に断裂した症例では患者さんの年齢や生活環境、スポーツなどの趣味を考慮し、手術的治療(縫合術、前肩峰形成術など)を検討します。

※腱板(けんばん)は、大結節に付着して腕を外旋(外ひねり)させる棘上筋・棘下筋・小円筋と、小結節に付着して内旋(内ひねり)させる肩甲下筋の四つの筋腱より構成されています。
腱板が断裂している場合は程度によりますが、鍼灸治療の適応とはなりません。

※発病して時間が長いと凍結肩甲(フローズンショルダー)が起こっている可能性が高く、関節包の短縮、癒着性関節包炎をおこしやすくなります。

2.当院の治療法

五十肩の分類
五十肩は、腕が水平以上に挙がらない五十肩と腕が背中に回らない五十肩との二種類に分類できます。しかし、治療そのものは脊椎近傍への治療を中心として患部と拮抗する筋肉にも配慮するため、方針が重複する場合も多くあります。
痛む部分だけでなく硬結がある部分も幅広く治療対象部位と考えて肩関節周囲の柔軟性を回復させることが大切です。

1.腕が水平以上に挙がらない五十肩
上腕骨の大結節あたりや、肩峰より少し奥の上腕骨頭に痛みを感じます。原因不明のもの以外では肩峰下滑包炎や、棘上筋の緊張で付着部が痛むものがこれにあたります。

 【治療方法】
 ①頚夾脊と背夾脊への刺鍼(脊椎の近傍部に刺鍼します)
 ②肩井から棘上筋への刺鍼(くびから肩の方向に)
 ③側頚部への刺鍼
 ④菱形筋・棘下筋(肩甲骨周囲の筋肉)にカッピング(吸玉)
 ⑤三角筋付着部に対して刺鍼(一番代表的な肩の筋肉です)
 三角筋が痛む場合は、上腕骨を三等分して上から1/3ぐらいのところが痛みます。
 そこが付着部ですから、付着部に縦横から刺鍼します。

☆ 以上、治療対象とする筋肉は棘上筋・肩甲挙筋・菱形筋・前斜角筋・小斜角筋・三角筋などです。

2.腕が背中に回らない五十肩
後ろへ腕を回すと、上腕骨頭の前側(肩の前面)が痛みます。

【治療方法】
 ①中府と雲門にカッピング(吸玉)または鍼(烏口腕筋・小胸筋の付着部・大胸筋にあたります)
 ②小円筋付着部、棘下筋にカッピング(吸玉)をする
肩関節をささえている前面・背面の大小さまざまな筋肉を治療することになります。

☆ 以上、治療対象とする筋肉は烏口腕筋・小胸筋・大胸筋、棘下筋、小円筋などです。

上記の内容だけでも、肩関節周囲には筋肉が多く、治療も複雑であることがご理解いただけることと思います。使いすぎによる故障や、事故による怪我でも傷めた筋肉を特定して、その周囲の筋肉にも配慮して治療することに変わりはありません。
寝違え、むち打ち、野球肩などの障害も基本的に同じです。インナーマッスル(深部の筋肉)を痛めた場合には長鍼による治療が不可欠となります。