腰椎椎間板ようついついかんばんヘルニア

1.どんな病気?

医師と患者の認識にギャップがある病気

腰椎椎間板ヘルニアという病気は非常にポピュラーで、名前はご存知の方が多いと思います。しかし、その治療の基本が仕事を休んでの安静であることを知っている方は案外少ないと思います。

ですから、鍼灸院に来院される患者さんが医師に自分の仕事の都合などを言っても対応が冷たかったと言うことがよくありますが、病院では仕事や家事を今まで通りに行うことを治療の前提としているわけではありません。

また、以前は完治させる方法は外科手術のみという考え方でしたが、現在では発症から3~6ヶ月間はヘルニアの自然消退を待つ経過観察期間であり、その期間中に保存的治療が奏効せず安静時でも激痛がある場合などは手術の適応となります。

経過観察期間ができたことで、その間の鎮痛・症状の緩和は今までよりも一層重要なこととなっています。この期間における鎮痛および症状の緩和が鍼灸治療の一番大きな役割だといえます。

最近では鍼灸治療の役割に変化

椎間板ヘルニアとはゼリー状の髄核が後方へ移動し、脊柱管内に飛び出た状態を言います。人口の1%程度に認められ、20~40歳代に多く、男性が女性より2~3倍多く、加齢に加え、捻挫や打撲、長時間一定の姿勢を強いる作業、スポーツ傷害などが誘因となって発生します。なかには、重いものを持った際や「くしゃみ」などをきっかけに発症することもあります。
最近では、遺伝的要因や喫煙が腰椎椎間板ヘルニアの発生に大きく影響していると考えられています。

症状は腰痛やお尻の痛み、足先に走る痛み、シビレ、間欠性跛行(数10m~数100m歩くと足に痛みやシビレが現れ、休憩を必要とする状態)などです。腰よりも脚の背側が痛むことが多く、ヘルニアは腰椎の5番だけに起きることもあるので脚の背側全体ではなく膝から下だけなど一部分が痛むことがあるのも特徴の一つです。

レントゲン検査では椎間板がつぶれて狭くなった状態がわかります。診断は診察とレントゲン検査で容易ですが、確定診断としてはMRIや脊髄、椎間板、神経根の造影検査などが必要となります。梨状筋症候群や腫瘍との鑑別(見極め)が必要な場合もあります。

病院での治療は、非ステロイド系抗炎症剤やビタミンB製剤、筋弛緩剤などを処方、リハビリとして牽引や温熱療法、電気刺激療法、腰部のストレッチや筋力強化訓練の指導があります。難治例では神経ブロック療法などをします。

これらの保存的治療(手術しない方法)で改善が得られない場合は手術を考慮します。

近年、MRIの普及などによりヘルニアの病態が解明されつつあり一部のヘルニア(サイズが大きいヘルニア、破裂し遊離したヘルニア)では、自然に消退縮小することも解ってきました。したがって、急を要する症例(運動麻痺や直腸膀胱障害を認める症例)以外は、3~6ヶ月間の保存的治療を行うように指導されます。

一般的に、腰椎椎間板ヘルニアの90%程度が保存的治療により軽快します。
以前ならば主治医の判断ですぐに手術を勧められたような症例でも最近では経過観察のため3~6ヶ月間の保存的治療を行うようになったことから、保存的治療としての鍼灸治療の役割も重要性を増しています。

2.当院での治療

鍼灸治療を施してもヘルニアそのものが無くなるわけではありませんが、激痛を早く鎮め、椎間板にかかったストレスを和らげる効果は高いものがあります。

治療の基本

 ①脊椎の近傍にある華佗夾脊穴(左右両側)に対する治療
 ②大腰筋の緊張や痙攣に対する治療

上記2つの治療による腰椎椎間板にかかったストレスの除去が基本になります。ヘルニアの種類・程度にもよりますが脊椎の近傍にある華佗夾脊穴に左右とも鍼を打ち、腰の深部にある大腰筋の緊張や痙攣に対する処置をすることにより、適切に椎間板へのストレスが除去できます。坐骨神経痛があれば、その治療も加えます。

※大腰筋とは
大腰筋は胸椎下部から大腿骨上前部に付着しています。強く緊張すると足のほうに背骨を引っ張り、背骨と椎間板に強いストレスがかかってヘルニアになりやすい状態をつくります。早めに大腰筋の緊張を解くことが大切です。

※ 牽引と鍼灸治療の併用
ヘルニアの患者さんで牽引すると気持ちがよいという方がいます。その場合、牽引の効果が期待できますので治療のメインになりますが、しばらく経過すると効果にバラツキが出てくる場合があります。そのような場合にも大腰筋に刺鍼して緊張を鎮め、夾脊穴にも処置をすれば牽引治療が再びうまくいく場合があります。できるだけ保存的治療をしながら生活していきたいとお考えの患者さんには鍼灸治療をしながら牽引治療を受ける方法は一つの選択肢となります。

ヘルニアの発症時は病院での検査・治療と鍼灸院での治療で患者さんも大変ですが、大変なのは激痛が治まるまでの1,2週間です。その後はだんだん7日から14日程度の治療間隔に空けていくことができますから頑張ってみてください。